赤と青

Vanille2010-02-27

「長かったけど、あっという間の4分間。」
演技直後のインタビューで、溢れてくる涙を抑えながら、彼女はこう答えた。この短いコメントで、浅田選手のここまでの道程というか、オリンピックにかけてきた思いがものすごく伝わってきた。五輪史上初の、フリーで2度のトリプルアクセルをクリーンに決めたものの、後半のジャンプでミス。「パーフェクトな演技をしたい。」と言っていた本人にとってはやや悔いの残る演技になってしまったのだろう。
金メダルを取ったキム・ヨナの演技は、今のフィギュアの採点方法を研究しつくした、とにかく「点が取れるスケート」で圧倒的に完成度が高かった。ジャンプ、スピン、ステップ、スパイラル、振り付け、技のつなぎ、音楽の表現、身のこなし、スケート技術。ステップとスパイラルを除く全ての要素で浅田選手を上回っていた。使用した曲も、キム・ヨナアメリカの作曲家、ガーシュインの「ピアノ協奏曲ヘ長調」。一方真央ちゃんはロシアのラフマニノフ前奏曲「鐘」。キム・ヨナSPの「007」といい、大衆受け、北米受けする曲をわかりやすく狙ってきたなあという感じである。「007」は確かに旨いプログラムだなあと思ったけど、フリーの方は“作品”という目でとらえた時はあまり面白みもない、印象に残らない単調な印象を受けた。

個人的には「鐘」の方が観ていて感動したな。芸術性では絶対にこっちの方が高かったと思う。これまでの可憐で可愛らしい印象をガラリと変えた、重厚で力強い演技。演技中、真央ちゃんは殆ど強い表情をしているんですね。極寒のロシアに鳴り響く重厚な鐘の音を連想させる、女子フィギュアでは観たことのない、ある意味革命的なプログラムだった気がします。残念ながらこの作品を完璧に演じきることはできなかったけれど、たぶんキム・ヨナの演技は忘れてしまったとしても、この「鐘」というプログラムは、この先もずっと記憶に残ると思います。いつかパーフェクトな浅田真央の「鐘」を観たいものです。

ソルトレイクの男子フィギュアで、アレクセイ・ヤグディンの「仮面の男」を観た時、まるで1本の短い芝居のような、ストーリー性のある演技・構成に感動したものだ。あれもコーチはタラソワなんですよね。あの時はちょうど仕事がなくてプー状態だったんで(汗)、生放送で観ていましたが、思わずテレビの前でスタンディングオベーションしてました。真央ちゃんの演技を観ていたら、それと同じような感動を覚えました。
記憶に残るスケート。他にはリレハンメルの時のオクサナ・バイウル、長野のフィリップ・キャンデロロ「ダルタニアン」、高橋大輔の「ヒップホップ白鳥の湖」、そしてアレクセイ・ヤグディンの「仮面の男」。あっ、そうそうジョニー・ウィアーの「ポーカーフェイス」もね。
今こうして考えてみると、トリノプルシェンコとか荒川さんの演技については意外と強い印象はないんですね。プルシェンコは全体的にジャンプやステップが他を圧倒していたと思うし、荒川さんは優雅で美しいスケーティングだったけど、「インパクトの強さ」という点では「鐘」という作品は何か妙に訴えてくるものがありました。ついでに言うとSPの「仮面舞踏会」もドラマティックな曲調が素敵です。
それにしても今回のバンクーバー、やっぱり青い衣装を身につけたキム・ヨナが金メダルでしたね。なぜか長野の時からずっと青衣装が金を取るというジンクスめいたものになっているのよね。最終グループの選手の衣装を見てみると、レイチェル・フラット→赤、安藤美姫→青(ターコイズブルー)、キム・ヨナ→青、浅田真央→赤(と黒)、ジョアニー・ロシェット→青、長洲未来→赤(と黒)といった具合で、見事にレッドorブルーという図式になっていました。う〜む、色の印象と競技結果の因果関係みたいなものってあるのだろうか?
バンクーバーオリンピックも残りわずか。日本の金メダルはもう無理だと思うけど、あとは最後のお楽しみ、フィギュアのエキシビションを思う存分堪能したいと思います。ジョニー・ウィアーは出るのかなあ?6位以下は無理かしら?
とにかく、真央ちゃん!お疲れ様でした!